食品の卸価格は、どう決めるか
「掛率はどれくらいですか」と聞かれてから考え始めると、価格はほぼ必ず相手の言い値に寄ります。しかも掛率だけを見て決めた価格は、後から乗ってくる費用で利益が消えます。この記事では、卸価格をどの順番で決め、値引きを求められたときに何を動かすかを、実際に売ってきた側の目線で整理します。
この記事の結論
- 卸価格は掛率から逆算しない。本当の原価・1回で残す利益額・供給余力の3つを先に固める。
- 掛率とは別に物流費・センター使用料・販促協賛・返品が乗る。すべて引いた残りで判断する。
- 値引きを求められたら価格ではなくロット・支払サイト・納期・仕様を動かす。譲るときは期間か数量で区切る。
この記事の内容
掛率は「聞かれてから」決めると必ず削られる
商談で価格の話になると、多くの場合バイヤー側から先に条件が出ます。「うちは通常この掛率でお願いしています」という一言です。ここで即答できないと、持ち帰って社内で計算し、次の商談で回答することになります。
この持ち帰りが、価格を下げます。理由は単純で、一度出された条件が基準になってしまうからです。こちらが後から出す数字は、その条件からどれだけ譲るかという話にしかなりません。先に条件を出した側が、交渉の基準を握ります。
さらに、持ち帰りは相手の熱が冷める時間をつくります。バイヤーへの新規提案の記事でも書いたとおり、最初の商談で必ず聞かれる項目は決まっています。価格はその筆頭です。即答できる状態にしておくだけで、商談の進み方が変わります。
POINT
掛率は交渉の場で決めるものではなく、商談に行く前に決めておくものです。決めるべきは「この価格なら受ける」ではなく「ここから下は受けない」という下限です。
価格を決める前に固める3つの数字
卸価格を掛率から逆算すると、必ずどこかで合わなくなります。先に固めるのは次の3つです。
1. 本当の原価
原材料費と製造費だけを原価と呼んでいる会社は少なくありません。実際にはここに、包装資材、ラベル、段ボール、保管費、そして自社から出荷するまでの人の手間が乗ります。小ロットで作るほど1個あたりの負担は重くなります。原価が甘いと、以降の計算がすべて甘くなります。
2. 1回の取引で残さなければいけない利益額
利益率ではなく、金額で持っておくと判断が速くなります。率で管理していると、「率は確保できているのに現金が残らない」という状態に気づけません。1ケースあたり、あるいは1回の納品あたりでいくら残るのかを見ます。
3. 月にどれだけ出せるか
供給余力は納期の話に見えて、実は価格の話です。出せる量に限りがあるなら、安い取引で枠を埋めてしまうと、後から来た条件の良い取引を受けられません。販路開拓の進め方で「リストより先に供給余力を決める」と書いたのは、この理由もあります。
この3つが決まっていれば、掛率は自動的に下限が出ます。あとは、その下限をチャネルごとにどう置くかだけです。
掛率のほかに引かれるものがある
卸価格を決めるときに最も見落とされるのが、掛率とは別に発生する費用です。掛率の数字だけを見て「この条件なら合う」と判断すると、実際の入金額が想定と違ってきます。
| 物流費 | 誰がどこまで運ぶかで負担が変わります。指定の倉庫や物流センターへの納品を求められる場合、そこまでの運賃はこちら持ちになることが一般的です。地域によって運賃が変わる点も、事前に確認が必要です。 |
|---|---|
| センター使用料 | 小売のチェーンと取引すると、物流センターの使用料が納品金額に対して差し引かれることがあります。掛率とは別枠で引かれるため、掛率だけで採算を見ていると想定が崩れます。 |
| 販促協賛・チラシ協賛 | 特売やチラシ掲載に合わせて、一時的に値引きや協賛金を求められることがあります。年に何回、どの程度の規模で発生するのかを聞いておきます。 |
| 返品・未納の扱い | 売れ残りが返品されるのか、買い取りなのか。返品がある取引では、在庫リスクがこちらに残ります。賞味期限が短い商品ほど影響が大きくなります。 |
| サンプル・什器 | 初回導入時のサンプル提供や、売場で使う什器・POPの費用をどちらが持つか。金額は小さく見えても、店舗数が増えると無視できません。 |
大事なのは、これらを「取られるもの」と考えないことです。いずれも商習慣として存在するもので、問題なのは金額そのものではなく、知らないまま価格を出してしまうことです。最初に全部聞いておけば、そのぶんを織り込んだ価格を出せます。
POINT
判断すべきは掛率ではなく、すべてを引いたあとに手元に残る金額です。商談では「掛率のほかに発生する費用はありますか」と一度聞いておくだけで、後からの想定外がほぼ無くなります。
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チャネルごとに価格を階段で持つ
価格を1本で持っていると、どこかで必ず無理が出ます。求められる条件がチャネルごとに違うからです。あらかじめ段差をつけた表を用意しておきます。
| 業務用(飲食店・ホテル) | 1食あたりの原価と、仕込みがどれだけ減るかで判断されます。容量が大きく、パッケージの見栄えは求められないぶん、こちらのコストも抑えられます。 |
|---|---|
| 小売への直接取引 | 間に入る会社がないため、条件は比較的良くなります。ただし店舗ごとの少量発注と納品対応が発生し、その手間が実質的なコストになります。 |
| 卸・商社 | 条件は最も厳しくなります。その先にもう一段の流通があるため、そのぶんの幅を持たせる必要があるからです。一方で1社通れば販売先が一気に広がります。 |
| EC・自社通販 | 中間がないぶん最も残りますが、送料と決済手数料、そして梱包の人手が乗ります。単価が低い商品は、まとめ買いの設計が前提になります。 |
この段差をあらかじめ決めておくと、商談の場で「御社の場合はこの条件です」と根拠を持って言えます。逆に相手ごとに都度考えていると、後から社内で説明できない価格が並びます。当社が業務用・卸売・小売のすべてのチャネルで取引開始まで担当してきた経験でも、価格表を階段で持っている会社は商談が速く進みます。
値引きを求められたときに動かす変数
条件が合わないと言われたとき、価格を下げる以外にも動かせるものがあります。むしろ、価格以外で応じたほうが後が楽です。
- 発注ロット——まとめて発注してもらえるなら、製造と出荷の効率が上がります。価格を下げる理由が立ちます。
- 支払いサイト——入金が早くなるなら、こちらの資金繰りが軽くなります。金額を動かさずに価値を渡せます。
- 納品リードタイム——余裕をもって発注してもらえれば、生産をまとめられます。急ぎの対応がなくなるだけでコストは下がります。
- 包装・入数の変更——ケース入数を変える、簡易包装にするなど、仕様側で吸収できる部分があります。
- 期間や数量を区切った条件——初回導入時のみ、この数量までは、と範囲を明示します。恒久的な値引きにしないことが要点です。
値引き交渉は、相手も仕事として持ち帰る材料を探しています。価格そのものでなくても、社内で説明がつく材料があればいいという場面は珍しくありません。何も用意せずに「これ以上は下げられません」とだけ返すと、話はそこで止まります。
最初に出した価格は、後から上げられない
取引を始めたい気持ちが強いと、初回の条件を大きく譲りたくなります。ですが一度出した価格は、実務上ほとんど戻せません。値上げには理由の説明と交渉が要り、場合によっては取引そのものが見直されます。
取引を取るために譲るなら、価格ではなく期間や数量を区切ります。「初回の1回のみ」「この数量まで」と明示しておけば、次回は通常条件に戻す話ができます。区切らずに下げた価格は、そのまま基準になります。
もうひとつ、値引きの記録を残してください。誰に、いつ、どの条件で、なぜ下げたのか。これが残っていないと、数年後に自社の価格がどこまで崩れているのかを誰も把握できなくなります。断られた理由を残すのと同じで、価格も記録が無いと改善できません。
まとめ:価格は商談の前に決まっている
- 本当の原価・1回で残す利益額・供給余力の3つを先に固める
- 掛率のほかに何が引かれるかを、商談で必ず聞く
- チャネルごとに段差をつけた価格表を用意する
- 値引きを求められたら、ロット・支払サイト・納期・仕様を動かす
- 譲るときは期間か数量で区切り、記録を残す
価格の交渉に強い会社は、話がうまいわけではありません。商談に行く前に下限が決まっていて、その場で判断できるだけです。判断できる状態をつくるのに、特別な仕組みは要りません。
当社は食品専業で、自社でも製造・卸売・小売を行っています。売る側としても仕入れる側としても価格交渉の場に立ってきたため、ターゲットの抽出から架電営業、商談の獲得までを代行するなかで、価格と条件の詰め方までご相談いただけます。ご要望に応じて商談・成約まで伴走するプランもご用意しています。
よくある質問
食品の卸価格はどうやって決めればいいですか。
掛率から逆算するのではなく、本当の原価、1回の取引で残さなければいけない利益額、月にどれだけ出せるかの3つを先に固めます。原価には原材料費と製造費だけでなく、包装資材、ラベル、段ボール、保管費、出荷までの手間が含まれます。この3つが決まれば掛率の下限は自動的に出ます。
掛率のほかに費用が発生することはありますか。
あります。指定の倉庫や物流センターへの納品運賃、小売チェーンとの取引で発生するセンター使用料、特売やチラシに合わせた販促協賛、売れ残りの返品、初回導入時のサンプルや什器の費用などです。掛率とは別枠で引かれるため、掛率だけで採算を見ていると想定が崩れます。商談で一度まとめて確認してください。
卸価格はチャネルごとに変えるべきですか。
変えるべきです。業務用は1食あたりの原価と仕込み時間で判断され、小売への直接取引は間に入る会社がないぶん条件が良くなる一方で少量発注の手間が乗ります。卸・商社はその先にもう一段の流通があるため最も厳しくなり、ECは中間がない代わりに送料と決済手数料と梱包の人手が乗ります。あらかじめ段差をつけた価格表を用意しておくと、商談の場で根拠を持って答えられます。
値引きを求められたときはどうすればいいですか。
価格を下げる前に、発注ロット、支払いサイト、納品リードタイム、包装や入数の仕様を動かせないか検討します。相手も社内で説明がつく材料を探しているため、価格そのものでなくても話が進む場面は珍しくありません。やむを得ず価格で譲る場合は「初回のみ」「この数量まで」と期間か数量で区切り、恒久的な値引きにしないことが重要です。一度出した価格は実務上ほとんど戻せません。
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